車線変更事故の慰謝料額を計算するため過失割合を具体的事例から解説

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事故発生

新たに改正民法が施行されました。交通事故の損害賠償請求権に関するルールに変更があります。

車線変更による事故は、基本的に当事者がどちらも運転している際に生じるため、加害者だけでなく被害者にも過失が認められることが多く、当事者間の過失割合がよく問題となります。

適切な過失割合かどうかを判断できなければ、相場の慰謝料を得られない恐れがあるのです。

本記事では、車線変更によって生じた事故における過失割合の計算方法を、具体的な事例をもとに解説しています。

車線変更の事故により被害が生じ、相場の慰謝料を請求したいと考えている方は、是非確認してください。

車線変更事故の過失割合により慰謝料額が異なる

そもそも過失割合とは

過失割合とは、交通事故における加害者と被害者の過失の程度を示したものです。

そして、交通事故における過失とは、交通事故発生の原因となった当事者のミスや不注意などによる義務違反をいいます。

例えば、交差点にある横断歩道を歩行者が通行している場合は、歩行者を優先するという義務が道路交通法により課されているのです。

このような義務が存在するにもかかわらず、歩行者に気づかずに自動車が交差点に進入したため歩行者と接触してしまった場合には、自動車のドライバーに義務違反の過失が認められ、事故の責任を負う必要があるでしょう。

交通事故の多くは当事者双方に何らかの過失が認められるため、当事者間における過失の程度を比較して、過失割合を考えることになるのです。

過失割合は、事故の類型により基本的な過失割合が定められており、そこに過失割合が変動する修正要素を加えるという方法できまります。

被害者の過失割合に応じて被害者の請求できる慰謝料が減額されるため、過失割合は慰謝料の金額に大きな影響を及ぼす要素といえるのです。

また、過失割合の関係で被害者に金銭的な負担が生じるケースがあります。
詳しくは『交通事故の過失割合で自己負担が増減|保険を使うかは保険料で決める』の記事で確認可能です。

車線変更事故の基本的な過失割合は70対30

車線変更事故とは、車線変更を行った際に、変更後の車線を走行中の後続車と衝突するという事故のことです。

ウインカー(方向指示器)による合図をして3秒経過してから車線変更を行うという、適切な車線変更行為があったことを前提としています。

そのため、車間距離が不十分だったために、車線変更後に前方車との衝突を避けようとして急ブレーキをかけて後方車が追突したというようなケースは想定していません。
このような追突事故は個別に過失割合が判断されるでしょう。

自動車同士の車線変更による交通事故の基本的な過失割合は、車線変更車が70%、後続直進車が30%のため、70対30と表記されるのです。

道路交通法26条の2第2項では、後続車の速度や方向を急変更させるおそれのある車線変更を禁止しています。

後続車に車線変更車と衝突しないよう減速を要求させる行為であるため、基本的に後続車の方が過失が小さいと判断されるのです。
しかし、後続車は車線変更を察知して衝突しないように回避する義務があるので、後続車にも一定の過失が認められるでしょう。

この基本的な過失割合に、事故の状況に応じた具体的な修正要素を加えて最終的な過失割合が決まります。
基本的な過失割合や修正要素については、別冊判例タイムズ38号という書籍で確認できます。

過失割合について

  • 慰謝料の金額は当事者間における過失割合の程度により異なってくる
  • 基本的な過失割合は車線変更車が70%、後続直進車が30%
  • 基本的な過失割合に修正要素を加えて過失割合が決まる

車線変更事故の過失割合が変動する事例を紹介

車線変更事故の基本的な過失割合が70対30であるとして、どのような修正要素により、過失割合がどの程度変動するのでしょうか。

一般的な修正要素ごとに解説を行うので、車線変更による交通事故の当事者である方は是非確認してください。

また、正確な過失割合を主張するために重要となる資料に関しては『交通事故の過失割合でなぜもめる?理由と対策・対処法を知れば安心!』の記事で知ることができます。

車線変更の合図がなかった

道路交通法上、自動車は車線変更時にウインカーの点滅といった方法で事前に車線変更する合図を出すことが義務付けられています。

そのため、後続車は事前に車線変更の合図があることを前提に、前方の安全確認を行いながら運転する義務があり、合図がないままに車線変更が行われて衝突事故が発生した場合には、後続車の義務違反は小さいと判断されるのです。

したがって、後続車の義務違反が小さいことから後続車の過失割合が減少するので、車線変更の合図がない場合には、過失割合が90対10と判断されます。

後続車の過失割合が0とならないのは、合図がないまま車線変更を行う可能性があることも考慮する必要があると考えられているためです。

車線変更禁止の場所だった

車線変更を禁止している場所での車線変更は、道路の損壊や工事などにより車線変更が必要であるといった例外がなければ認められていません。

そのため、後続車としては本来車線変更について注意すべきでない場所で車線変更が行われ、衝突となっているので、後続車に課されている前方の安全を注意する義務に違反した程度は小さいと判断されるのです。

したがって、後続車の義務違反が小さいことから後続車の過失割合が減少するので、車線変更禁止の場所で車線変更があった場合には、過失割合が90対10と判断されます。

車線変更禁止の場所でも車線変更がなされる可能性が0ではないため、後続車の過失がなくなるわけではありません。

ゼブラゾーンを走行していた

ゼブラゾーンとは、通行する車両の安全かつ円滑な走行を誘導するために設置される道路標識です。

ゼブラゾーン内を走行すること自体は法律により禁止されているわけではありませんが、車両の誘導のために設置されているので、ドライバーもゼブラゾーンには通常侵入しないと考えて走行しています。

そのため、ゼブラゾーン内を走行している際に車線変更によって衝突事故が起きた場合には、通常予測ができない動きにより事故が起きたとして、ゼブラゾーン内を走行している車両の過失割合が増加するのです。

具体的な例として、ゼブラゾーンに沿って左車線から右車線に車線変更を適切に行った自動車が、ゼブラゾーン内を走行していた後続車と衝突したといったケースが考えられるでしょう。

ゼブラゾーン内を走行していた車両の過失割合が10~20%加算されます。

車線変更の際に後続車が法定速度違反で走行していた

車線変更を行う際に後続車が法定速度に違反するスピードを出していたなら、車線変更の際に適切な判断を行えない状態であったということができます。

そのため、スピード違反を行っていた後続車の過失割合が加算されるのです。
加算される程度については、15km以上スピード違反の場合は10%、30km以上のスピード違反の場合には20%となります。

例えば、安全運転のまま適切に車線変更を行ったものの、後続車が30km以上のスピード違反を行っていたために衝突してしまった場合には、過失割合は50対50と判断されるのです。

後続車が初心者マークを付けていた

後続車が初心者マークを付けている自動車である場合には、車線変更に対して十分に対応できない可能性が予想できます。

そのため、車線変更を行う自動車に通常よりも重い注意義務が課されるので、車線変更により追突が生じた場合には、車線変更を行った自動車に過失が加算されるのです。

後続車が初心者マークを付けている場合には、過失割合が80対20と判断されます。

このような過失割合の加算は、後続車がシルバーマークを付けている場合や、仮免許を受けたものが運転している場合も適用されるのです。

そのほかの修正要素

上記の修正要素以外にも、当事者に著しい過失や重過失に該当する危険な行為があると判断された場合には、過失割合が変動します。

一般的に著しい過失や重過失に該当すると判断される行為は以下の通りです。

著しい過失と判断される行為

  • 脇見運転
  • 著しいハンドルやブレーキの不適切操作
  • 携帯電話で通話していた
  • 酒気帯び運転

重過失と判断される行為

  • 酒酔い運転
  • 居眠り運転
  • 無免許運転
  • 病気や薬物により正常な運転が困難であった

著しい過失があると判断された場合には過失割合が10%、重過失があると判断された場合は20%加算されます。

車線変更による事故における過失割合のまとめ

進路変更車と後続の直進車による衝突事故の過失割合
基本的な過失割合A30:B70
Bの車線変更合図なしB+20
車線変更禁止の場所B+20
Aがゼブラゾーン走行A+10~20
Aが15km以上の速度違反A+10
Aが30km以上の速度違反A+20
Aが初心者マークB+10
Aの著しい過失A+10
Aの重過失A+20

上記の過失割合は一般道路における説明になります。
高速道路上では、追い越し車線への車線変更である場合には基本的な過失割合について車線変更車が80%、後続車が20%になり、修正要素も異なるのです。

バイクや自転車との車線変更事故における過失割合を紹介

衝突事故の相手がバイクは自転車であった場合の過失割合は、自動車同士の場合と異なります。

特に、自転車は自動車と比較すると交通弱者と扱われるため、自転車に有利な結果となる可能性が高いでしょう。

バイクと自動車による車線変更事故

自動車が車線変更を行ったケース

自動車が車線変更を行い、後続車であるバイクと衝突したケースの過失割合は以下のように判断されます。

原動機付自動車もバイクに含んで判断してください。

自動車が進路変更を行い、バイクと衝突事故を起こした場合の過失割合
基本的な過失割合A20:B80
Bの車線変更合図なしB+20
車線変更禁止の場所B+20
Aが15km以上の速度違反A+5
Aが30km以上の速度違反A+15
Aの著しい過失A+5
Aの重過失A+10
Bの著しい過失B+5
Bの重過失B+10

※Aがヘルメットを着用していなかったために被害が拡大したといえる場合には、Aに著しい過失が認められる

バイクが車線変更を行ったケース

バイクが車線変更を行い、後方の走行車であった自動車と衝突したケースにおける過失割合は以下のように判断されます。

バイクが進路変更を行い、自動車と接触事故になった場合の過失割合
基本的な過失割合A60:B40
Aの車線変更合図なしA+15
車線変更禁止の場所A+15
Bが15km以上の速度違反B+10
Bが30km以上の速度違反B+20
Bが初心者マークA+10
Aの著しい過失A+5
Aの重過失A+10
Bの著しい過失B+10
Bの重過失B+20

※Aが原動機付自動車であり、Aが自動車の左側から中央寄りの車線に車線変更を行った場合は著しい過失とする

自転車と自動車による車線変更事故

自動車が車線変更を行ったケース

自動車が車線変更を行い、後ろにいた自転車と衝突したケースの過失割合は以下のように判断されます。

自転車をA、自動車をBとして過失割合を判断

基本的な過失割合A10:B90
Bの車線変更合図なしB+10
車線変更禁止の場所B+10
Aが児童や高齢者B+10
Aの著しい過失A+5
Aの重過失A+10

※Bがバイクの場合も同様に判断

Aに著しい過失や重過失が認められる行為は、以下の通りです。

著しい過失に該当する行為

  • 酒気帯び運転
  • 2人乗り
  • 無灯火
  • 傘を差して片手運転
  • 脇見運転
  • 携帯電話で通話しながら運転

重過失に該当する行為

  • 酒酔い運転
  • ブレーキが不良のまま運転

自転車が車線変更を行ったケース

自転車が車線変更を行い、後続車である自動車と衝突したケースでは、自転車の前方に障害物があったかどうかにより基本的な過失割合が異なります。

Aが自転車、Bが自動車として過失割合を判断

基本的な過失割合
(前方に障害物あり)
A10:B90
基本的な過失割合
(前方に障害物なし)
A20:B80
Aが車線変更合図なしA+10
Aが児童や高齢者B+10
Bの著しい過失B+10
Bの重過失B+20
Aの著しい過失A+5
Aの重過失A+10

前方に走行を妨害するような障害物が存在する場合には、自転車が障害物を回避するために車線変更を行うことが想定できるので、自動車の過失割合が重くなります。

バイクや自動車との事故について

  • 基本的な過失割合や修正要素が自動車同士の場合と異なってくる
  • 車線変更を行ったのが自動車なのか、バイクや自転車なのかでも違いがある
  • 自転車との事故であるなら自転車が有利と判断されやすい

相場額の慰謝料を得るには弁護士に依頼しよう

車線変更により生じた事故により被害を受けたのであれば、加害者に対して慰謝料を請求することが可能な場合があります。

しかし、請求相手となる加害者が相場額の慰謝料を簡単に支払ってくれるとは限りません。
相場額の慰謝料を得たい場合には、専門家である弁護士に依頼するべきです。

弁護士に依頼することで生じるメリットや、デメリットへの対処方法を紹介しているので、弁護士への依頼を検討している方は参考にしてください。

過失割合を正確に判断してくれる

車線変更により衝突事故が生じると、当事者間の過失割合が問題になることがあります。

特に、請求できる慰謝料の金額が大きいと、過失割合により最終的な慰謝料の金額が大きく異なってくるので、加害者側は少しでも自分自身に有利な過失割合になるような主張を行ってくるでしょう。

そのため、正確な過失割合の主張が必要となりますが、過失割合の修正要素は不明確な部分も多く、法律知識が十分でないと困難なことがあります。

弁護士に依頼すれば正確な過失割合を判断したうえで、相場額の慰謝料を支払うよう請求を行ってくれるでしょう。

専門家による根拠のある主張であるため、加害者も無理な主張を行わず、過失割合についてスムーズに話し合うことになる可能性が高いといえます。

過失割合の判断に不安がある、過失割合について意見がまとまらないという場合には弁護士に依頼しましょう。

過失割合による減額の前提となる慰謝料の金額については、自動計算機を利用すると簡単に知ることができます。
算出された金額と加害者側の主張する金額との差が大きいなら、弁護士に依頼すべきでしょう。

相場額の慰謝料の計算方法を知りたい方は『人身事故の慰謝料相場はいくら?計算方法や請求時の注意点は?』の記事を確認してください。

裁判になっても安心

過失割合や慰謝料の金額は、基本的に加害者との示談交渉により決定されます。

しかし、示談交渉が決裂してしまうと話し合いによる解決ができないため、裁判所に訴訟提起を行う必要があるでしょう。
請求額が高額であったり、加害者の過失割合を100%と主張する場合には、当事者間の意見に差がひらきやすくなるため、裁判までもつれる可能性が高いといえます。

裁判手続きは専門知識が要求される場面が多く、手続きを間違えれば相場額の慰謝料をもらい損ねる恐れがあるのです。

弁護士であれば裁判手続きを把握しているため、裁判において適切な手続きを行ってくれるでしょう。

また、裁判において判断される慰謝料の金額は相場に近い金額になることが多いので、弁護士に依頼して相場額の慰謝料を得るべきです。

弁護士費用はどうする?

弁護士に依頼するデメリットとして最も気になるのが、弁護士に支払う費用がいくらになるのかという点でしょう。

弁護士費用については、弁護士費用特約が利用できないかどうかを確認してください。

弁護士費用特約が利用できるのであれば、基本的に弁護士に支払う費用となる相談料は10万円まで、報酬は300万円まで保険会社が負担してくれます。

自分自身で負担する金額が非常に低くなるので、弁護士に依頼を行うべきでしょう。

弁護士費用特約を利用すれば、弁護士費用の負担が軽くなる

依頼するならアトム法律事務所へ

弁護士に依頼するのであれば、交通事故事件を多く取り扱っている弁護士に依頼しましょう。

過去の経験から、相場の慰謝料を請求するために適切な手続きを行ってくれる可能性が高いためです。

アトム法律事務所は、交通事故事件を多く取り扱っているため、経験豊富な弁護士に依頼することができます。

無料で法律相談を受けることが可能なので、一度気軽にご相談の上、依頼するかどうかを決めてください。

法律相談の連絡は電話だけでなく、メールやLINEでも可能です。

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弁護士への依頼について

  • 弁護士に依頼すれば正確な過失割合にもとづいた慰謝料請求を行ってくれる
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  • 弁護士費用特約が利用できるのであれば、弁護士費用は安く済む
  • 依頼するなら交通事故事件の経験が豊富なアトム法律事務所へ

まとめ

  • 過失割合の程度により請求できる慰謝料の金額が異なる
  • 車線変更による交通事故の基本的な過失割合は変更車が70%、後続車が30%
  • 車線変更の合図がなかったり、法定速度違反があると過失割合が変動する
  • 衝突相手がバイクや自転車の場合は基本的な過失割合や修正要素が異なる
  • 相場の慰謝料を得るには弁護士に依頼する必要がある
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監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

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